前十字靭帯損傷の治療は手術が必要?前十字靭帯断裂との違い

前十字靭帯

本記事にはプロモーションが含まれている場合があります

前十字靭帯損傷はスポーツ障害の中でもっとも多いケガのひとつです。

かつては、スポーツ生命を絶たれ断念する選手が多いケガでしたが、現在では適切な治療を受けることでスポーツへの復帰も可能です。

しかし、前十字靭帯損傷は日常生活において支障をきたす場合もあります。

そこでこの記事では、前十字靭帯損傷の症状や原因、治療法についてまとめました。

手術が必要な場合についても詳しく解説しますので、しっかり理解し適切な治療を受けてくださいね!

目次

前十字靭帯とは

前十字靭帯とは、膝関節の安定性を補強する靭帯のひとつです。

大腿骨(太ももの骨)と脛骨(すねの骨)をつなぎ、膝の動きを制御しています。

膝関節の構造と靭帯

膝関節は大腿骨(太ももの骨)、脛骨(すねの骨)、膝蓋骨(膝の皿)の3つの骨で構成されています。膝関節の大腿骨と脛骨でかみ合う大腿脛骨関節は全身でもっとも荷重がかかりやすい関節です。

しかし、構造的に不安定であるため、膝関節を補強するように次の4つの靭帯がつながっています。

  • 前十字靭帯
  • 後十字靭帯
  • 内側側副靱帯
  • 外側側副靭帯

それぞれの靭帯は膝関節が前後または左右、回旋する運動が必要以上に起こらないように制御しています。

前十字靭帯は、膝関節を構成する脛骨(すねの骨)が大腿骨(太ももの骨)に対して前方に滑り出しすぎないようにしているのです。

前十字靭帯損傷の原因

前十字靭帯損傷は、スポーツ外傷でよくみられる疾患です。発症しやすいスポーツとしてはバスケットボールサッカースキーなどです。

ジャンプの着地や急停止、急ターンで膝関節の脛骨(すねの骨)に前方引き出し力が加わります。膝にかかった負荷に耐えきれず、前十字靭帯損傷が起こります。

他の原因として多くみられるのは、コンタクトプレーで膝を捻ったときやバイクなどの交通事故です。

前十字靭帯損傷の症状

前十字靭帯損傷が起きたときの特徴は、激しい痛みとブツッという断裂音(ポップ音)です。靭帯からの内出血が起こり、膝関節が腫れてきます。

受傷後1ヶ月ほどで痛みが取れ、徐々に歩けるようになりますが、膝の不安定感や膝が抜けるような感じ(膝くずれ)が生じる場合があります。

前十字靱帯損傷と前十字靱帯断裂の違い

「前十字靭帯損傷と前十字靭帯断裂の違いはなに?」と疑問に思うかもしれません。前十字靭帯断裂は、前十字靭帯損傷の重度の段階と考えてください。

靭帯損傷の重症度は3段階に分けられます。診断はMRI画像診断の他に、ラックマンテスト前方引き出しテストという前十字靭帯の不安定さを見極める膝のチェックテストを用います。

1度損傷

  • 靭帯は切れていない。
  • 軽度の痛みと腫れがある。
  • 膝の不安定感はなし。
  • 膝のチェックテストは陰性。

2度損傷

  • 靭帯が部分断裂している。
  • 痛みと腫れ、関節機能の低下が生じる。
  • 膝に不安定感を感じグラつきがある。
  • 膝チェックテスト陽性。関節の緩みがある。
    靭帯による膝の制御機能が残っている。

3度損傷

  • 靭帯の完全断裂
  • 痛みと腫れがある。
  • 膝が不安定で体重をかけるのが困難
  • 膝チェックテスト陽性。関節の緩みが大きい。
    靭帯による膝の制御機能が感じられない。
  • 内出血が1〜2時間以内に生じる

前十字靭帯損傷の治療内容

損傷した前十字靭帯は、重症度によりますが損傷後1ヶ月程度で痛みが取れ、日常生活を支障なく送れるようになります。

しかし、切れてしまった靭帯は安静にしていても元に戻ることはありません。活動レベルに応じて保存療法や手術などの治療方針を決定します。

保存療法

あまり活動量の多くない中高年者は、装具療法や筋力増強訓練を中心とした保存療法で経過をみます。

装具療法

日常生活で膝の不安定感を補強するために膝装具やサポーターを使用します。膝の屈伸運動を補助する機能のついた装具などもあります。

手術

重度の場合や活動量が多い場合は手術が適応されます。まだ年齢が若かったり、スポーツ活動などを望まれたり、日常生活で膝崩れを繰り返す場合も手術が必要です。

再建術の方法

靭帯の再建術は前十字靭帯にかかわらず、自家腱・同種腱・人工靭帯に分けられます。その中でも、自身の組織を用いて再建する自家腱移植がベストだとされています。

多くは膝蓋腱(しつがいけん)や膝関節を曲げる屈筋腱を用いて大腿骨と脛骨の最適部位に固定し、前十字靭帯の機能を再建します。

また、前十字靭帯の切れていない線維はできるだけ残すことで血管からの栄養が早期に供給され、予後が良好です。

運動療法

前十字靭帯損傷後の膝は、構造的に不安定になります。また、膝関節周りの筋肉の筋緊張や膝蓋骨のアライメント(配置)の変化が原因です。

歩行では膝関節の不安定さをカバーしてぎこちない動きになります。また、膝関節の屈伸運動がスムーズにできなくなり、歩き方が大きく変化してしまいます。

受傷後は早期から運動療法を実施し、機能回復を図ることで負担のかかりにくい膝の使い方や歩き方を学習する必要があります。

運動療法では次のような訓練をします。

  • 膝関節や太もも周囲の筋肉や軟部組織をストレッチ
  • 大腿四頭筋やハムストリングスの筋力トレーニング
  • 段階的に足に体重をかけるトレーニング
  • 歩行訓練

スポーツへの復帰を目指している人へ

スポーツへの復帰を目指している場合は、前十字靭帯の再建術が必要です。

かつては、靭帯を損傷するとスポーツへの復帰は難しいとされていました。しかし、再建術後50〜60%が元の競技レベルまで復帰すると言われています。

術前の競技レベルが高いほど回復が見込め、適切に治療を受けることでスポーツへの復帰が可能です。

もし、再建術をせず放置してしまうと、膝への負担を強め、半月板損傷変形性膝関節症など合併症が起こります。

早期に手術とリハビリを続けることで、術後6ヶ月〜8ヶ月(1年)程度でスポーツへの復帰が望めます。

前十字靭帯損傷は適正な治療を早期から!

前十字靭帯損傷はスポーツ障害に多いケガのひとつです。活動量が多い若者やスポーツ選手は早期に靭帯再建術と運動療法を受けることで機能回復が可能です。

特に元の競技レベルまで回復を望まれる場合は、早期に治療を開始し、6〜8ヶ月間の積極的なリハビリが大切です!

ケガを放置せず、専門家に相談しながら治療をすすめてくださいね。


参考文献

【1】標準整形外科学第12版 p,679〜682 編集者:松野丈夫,中村利孝 他

【2】PTジャーナル29巻 2号2012年 2月 前十字靭帯損傷の機能解剖学的病態把握と理学療法p,161〜171 鈴川仁人,玉置龍也,木村佑

【3】運動器疾患の「なぜ?」がわかる臨床解剖学 p,149〜154 編集者:工藤慎太郎

【4】日本整形外科スポーツ医学会 スポーツ外傷シリーズ

この記事は執筆された時点での情報を元に記載されております。文書・写真・イラスト・リンク等の情報については、慎重に管理しておりますが、閲覧時点で情報が異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。 記載内容や権利(写真・イラスト)に関するお問合せ等はこちら

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次